旅立ちの日に。
「白い光の中に 山並みは萌えて」
どれだけ長い時間が経っても、卒業式で歌ったこの歌を忘れないのは、それだけ「卒業」という事柄が心に残っているということだろうか。
仁さんがプレゼンスを退社してから、もう直ぐ一週間が過ぎようとしている。
僕より2歳年上の先輩である仁さんは、新卒で入社してからずっとプレゼンスにいたので、僕からして見れば丸12年の付き合いだ。
入社当時、出来ることが少なく、色々と注意されたり、うまくいかない事が多かった僕の悩みを誰よりも聞いてくれたのが、仁さんだった。よく、ラーメンを食べに行き、僕の憤りや不満をぶちまけさせてもらった上に、おごってもらうという、なんともワガママなことをしていたと我ながら反省している。
それは、スタイリストになったり、店長、副店長になったり、家庭を持ったりしても、変わることはなかった。愚痴や不満は減ったが、組織についてだったり、スタイリストとしてどうしていくべきかを、腹を割って話せる先輩。それが仁さんだ。
段さんは僕にとって「お兄ちゃん」だが、仁さんは「兄貴」というイメージ。色々と、失礼なこともあったと思うが、嫌な顔もせず真剣に耳を傾けてくれる。
印象的なのは、サロンに来たお客さまみんなに気遣いをしていたこと。故に、仁さんがいなくなることを残念がる人は非常に多い。
いつものあの笑顔を見ると、誰もが安心感を覚えるはずだ。
(ごく稀に、めちゃくちゃ真顔の仁さんの眼が、殺し屋のそれに見えることがあるが)
こういう事を書いていて、思い出すのは意外にどうでも良いことだったりするのだが、、、
僕が東京に来て初めての誕生日の夜、クリスマス前ということもあって友人たちと六本木のクラブに行こうという話になった。ちなみに、人生初クラブである。
浮かれて散々に飲み、バーカウンターにあげられて踊り、意識が朦朧としたまま寮に帰った。もちろん、寝たのは二段ベッドの上の段だ。
「ユウマ、ユウマ。」
と優しい声がするので、ふと目を覚ますとなぜか目の前に仁さん。
「あれ、仁さん何してるんですか?」
と言った直後、猛烈な焦りを覚えて時計を見ると、すでに13時を周っていた。営業開始は11時、何なら9時半にはお店を開けていないといけない。まさに大遅刻である。心配した仁さんがわざわざ様子を見にきてくれたのだ。顔面蒼白の僕をなだめてくれ、三軒茶屋駅に向かう途中で仁さんが買ってくれたメロンパンの味を、僕は忘れないだろう。
その時21歳、23歳だった僕と仁さんも、今では30代。やるべきこと、考えるべきことも、もちろん増えた。
たくさんの出来事や変化の中で、仁さんが今新しいスタートを切ったことを、心から応援したいと思う。
寂しくはあるが、プレゼンスを辞めたからといって終わる関係でもない。
先輩後輩であると同時に、失礼ながら、親友とでもいうような不思議な想いがある。
そして僕にとってはいつまでも「兄貴」だし、
またすぐに、カウンターで肩を並べて一杯やることになるだろう。
話したいことは、まだまだあるのだから。
仁さん、たくさん助けてもらって、仕事も、遊びも、たくさん教えてもらいました。
一番身近にいただけに、お互いの気持ちや、やりたいことも分かっていたと思います。
そんな中、ワガママや、悩みを受け入れ続けてくれて本当に頭が上がりません。
僕も、自分の道をしっかり歩いていけるよう、がんばります。
12年間、本当にありがとうございました。
2017年、春。仁さんのこれからの活躍と、幸せを願って。
渡辺祐磨